マルチクラウドとハイブリッドクラウドの違いを徹底比較
自社にあったクラウドモデルの選び方も解説

2023年05月12日
近年のクラウド環境の運用方法としてマルチクラウドとハイブリッドクラウドの2つが多く導入されています。この2つの方法から、自社にあった適切なものを選定し、効果的に運用を行うためには、それぞれのメリットやデメリットを理解することが重要です。そこで本記事では、2つのクラウドモデルの概要や違い、自社に合ったクラウドモデルの選び方や運用時の注意点など解説します。

2つのクラウドモデル

クラウドモデルには、複数のクラウドサービスを使用するマルチクラウドと、オンプレミスのインフラ(またはプライベートクラウド)とパブリッククラウドを組み合わせたハイブリッドクラウドがあります。近年では、そのようなクラウドモデルの利用が増加しています。
加えて、「クラウドの利点を徹底的に活用するシステムを構築する」というクラウドネイティブの考えが浸透していることから、その運用方法については、企業によってそれぞれ適したモデルが導入されています
以降では、クラウドの運用モデルであるマルチクラウド、ハイブリッドクラウドの2つを解説します。

マルチクラウドとは

マルチクラウドとは

 

マルチクラウドは、2つ以上のパブリッククラウドが提供するクラウドサービスを活用する手法です。例えば、目的に合わせて、AWS※1とGCP※2を組み合わせて運用するといったケースがあります。

 

※1 AWS(Amazon Web Services):Amazonが提供しているクラウドコンピューティングサービス
※2 GCP(Google Cloud Platform):Googleが提供しているクラウドコンピューティングサービス

マルチクラウドのメリット

・ベンダーロックインの解消
1つ目は、ベンダーロックインの解消です。ベンダーロックインとは、ベンダーに依存するシステムを導入することで、技術面、切り替えコストなどの点で、他社サービスへ乗り換えが難しくなってしまうことです。この状態は、価格が上がっても他社へ切り替えることはできず運用コストが肥大化してしまいます。しかし、マルチクラウドでは、さまざまなベンダーのサービスを用途によって利用するため、常に最適化されたコストにて運用が行えます。

 

・リスク分散
1つのクラウドサービスを利用している場合、そのクラウドにて問題が起きてしまうと、自社のシステム・サービスがストップしてしまいます。場合によってはデータ損失の可能性もあり、そのリスクヘッジとして複数のサービスを利用することは有効と言えます。

 

・ネットワーク負荷の軽減
マルチクラウドでは、さまざまなサービスのサーバーを利用するため、アクセスの分散もできます。そのためネットワークの負荷も軽減し、先述したようなリスクの発生自体を予防することが可能です。

マルチクラウドのデメリット

・コストが膨らみやすい
マルチクラウドの場合、用途に合わせてさまざまなサービスを利用するため、費用対効果の検討が難しく運用コストは高くなる傾向があります。

 

・運用の煩雑化
マルチクラウドの運用を適切に行うためには、複数のクラウドサービスの知識が必要です。しかし、さまざまなサービスに精通した担当者の確保が難しく、結果として運用が煩雑になりやすいです。

 

・セキュリティリスクが高い
クラウドサービスは、それぞれセキュリティレベルが異なります。そのため、サービスによって扱う情報の管理方法を変更する必要がありますが、実際には対応しきれず、セキュリティリスクが高い状態で運用してしまっている企業も少なくありません。

ハイブリッドクラウドとは

ハイブリッドクラウドとは

 

ハイブリッドクラウドはプライベートクラウド、パブリッククラウド、オンプレミスという3つのインフラを企業のニーズに合わせて運用する手法です。例えば、クラウドに保存したくないデータはオンプレミス・プライベートクラウドに保存し、そのほかのデータなどはパブリッククラウドで管理するという形があります。

ハイブリッドクラウドのメリット

・セキュリティの向上
3つのインフラを用途に合わせて運用するハイブリットクラウドでは、機密性の高い情報をセキュリティが高いプライベートクラウドや自社サーバーに保存するといったセキュリティ性の高い運用が可能です。

 

・コストダウン
従来のプライベートクラウドでは、運用・保守コストが多くかかりやすいものでした。しかし、先述したようなデータの機密性などにて利用するインフラを調整することで、従来よりもシステム運用のコストダウンを行うことができます。

 

・リスク分散
ハイブリットクラウドもマルチクラウドと同様に、複数のサービスを利用し、インフラも分けられているため、問題発生時のリスク分散が可能です。

ハイブリッドクラウドのデメリット

・システム導入が難しい
ハイブリッドクラウドでは、複数のクラウドや物理サーバーを組み合わせて利用するため、その
導入も1つのクラウドの場合よりも複雑になります。特に各インフラ感のネットワーク連携は導入のボトルネックとなりやすいです。

 

・維持管理ができる担当者がいない
ハイブリットの運用・維持管理はパブリッククラウド、プライベートクラウド、物理サーバー、3つの環境に精通した担当者が必要になります。しかし、そのような人材の確保が難しく、自社内だけで運用しきれていない企業も少なくありません。

マルチクラウドとハイブリッドクラウドの違い

マルチクラウドとハイブリッドクラウドの違い

 

マルチクラウドとハイブリッドクラウドの違いとは、利用するインフラの幅があります。マルチクラウドは用途に合わせてさまざまなクラウドサービスを利用することで適切な環境を構築する一方で、ハイブリッドクラウドはオンプレミスのインフラ(またはプライベートクラウド)に対して、クラウドサービスを組み合わせて新しい環境を構築するものになります。

 

複数のクラウド環境を使いながら運用する点は同じです。さまざまなクラウドサービスを使うため、柔軟性やカスタマイズ性が高く、インフラ運用・維持・管理問題の解消が期待できます。主な違いは、マルチクラウドであればクラウド間の接続は必要ありませんが、ハイブリッドクラウドだと各環境間で接続できる環境の構築が必要になることです。

 

利用イメージとしては、マルチクラウドは、それぞれのクラウド環境やサービスを統合せず、目的に合わせて部分的に活用する運用形態です。そのため、大規模な障害やシステムダウンが起こりにくく、複数社のクラウドを用いてバックアップ体制を構築できます。また情報収集や分析など作業ごとに分割し、それぞれ最適なサービスを使うため、作業効率化が期待できます。

 

一方、ハイブリッドクラウドの場合、プライベートクラウド、パブリッククラウド、オンプレミスの強みを取り入れて、単一のシステムを成立させます。具体的には、機密情報の保管や開示を行うシステムはオンプレミス・プライベートクラウドで運用し、パブリッククラウドで情報公開を行うなどのセキュリティを意識した運用が可能です。また業務システムでは、パブリッククラウドでアプリ連携を、プライベートクラウドで基幹業務処理を行うといった運用もできます。

自社に適したクラウドモデルの選び方

2つのクラウドモデルには、メリットとデメリットが存在するため、企業によって採用すべきモデルは異なります。自社にあったクラウドモデルを導入するためには、現状の問題や目的を明確し、どちらのアプローチが適しているのか考えることが重要です。

 

例えば、運用の効率化が目的であれば、同時利用によってすぐ運用できるマルチクラウドが、将来的な業務を考慮し、セキュリティが高くコストの安いインフラを構築したいのであれば、ハイブリットクラウドがおすすめです。また昨今では、ハイブリッドクラウドの環境を構築し、運用にマルチクラウドを活用する実例もあります。

マルチクラウドとハイブリッドクラウドの導入の流れ

マルチクラウドとハイブリッドクラウドの導入の流れ

 

それぞれのクラウドの導入までの流れに違いはありません。現状の問題や目的によってどちらを導入するかが変わります。具体的な流れは以下の通りです。

 

① :現状の問題・導入による目的の明確化
まずは、現状の業務課題を明確にし、クラウド化によってどのような効果を得たいのか決定します。
この目的は不明瞭な場合、無駄にクラウドを増やしてしまったり、コストが高くなりすぎたりしてしまいます。

 

② :移行計画の策定
次にクラウド移行の計画を策定します。主に以下3つの検討を行いましょう。

・クラウド化するシステム・業務の洗い出し
明確にした課題に優先度をつけ、どのサービスを導入して、どれほどのコストが削減できるのか、どれくらい業務効率が上がるのかを検討する

・クラウド化する範囲の確認
実際に費用対効果や運用を考慮し、クラウド化する範囲を確認します。

・クラウド化に伴うリスクの確認
現行のシステムからクラウド移行によって変更が生じる部分を社員に共有しておくことも重要です。失敗した場合に備えて、企業の事業を止めてしまう可能性もあるため、対策を検討しておくと良いでしょう。

 

③ :導入するサービスの選定
決定した移行計画から、実施に導入するサービスを選定していきます。費用対効果や使いやすいさ、サポート体制などの観点を考慮することがポイントになります。

 

④ :事前テスト
次に移行・構築前の事前テストを行います。実際の運用と同様な環境のテストサーバー上で実施し、動作に問題がないか確認します。

 

⑤ :移行・構築
事前テスト後は、移行・構築を行います。行う際には、あらゆる事態を想定して連絡体制を整えておくとトラブル時の対応がスムーズになります。

 

⑥ :事後テスト
移行・構築完了後、実際の運用を始める前に、一部の部門などで事故テストを行っておくと、問題があった際の被害が最小限に済みます。

 

⑦ :運用
新しい環境にて運用を行っていきます。従来の運用や保守管理に変更点などがある場合は、担当者に報告し、マニュアルなどを作っておくと良いでしょう。

 

以下では、クラウド移行の手順やメリット、移行時によくある失敗を解説しております。

 

マルチクラウドとハイブリッドクラウドの運用課題(注意点)

マルチクラウドとハイブリッドクラウドの運用課題

 

実際に2つのクラウドサービスを運用する際には、クラウドモデルごとに注意すべき点があります。以下ではそれぞれの運用課題をご紹介します。

マルチクラウドの運用課題:サービス増加に伴う負担増加

マルチクラウドは、目的に合わせてクラウドを導入するため管理するサービスが増えてしまい、管理コストが膨大になる恐れがあります。
例えば、ID・パスワードでログインする場合、利用するサービスの数だけIDなどを覚えておかなければなりません。また、複数の場所にデータを保管することになりますが、サービスによってセキュリティレベルが違うため、その確認が必要です。

ハイブリットクラウドの運用課題:データの一元的管理と統合

ハイブリッドクラウドでは、基幹システムや独自システムはオンプレミスで、業務で使用するデータやアプリケーションはクラウドで運用します。そのため、それぞれのデータの管理やデータのスムーズな統合が運用において欠かせません
統合するには、システムの構造が複雑なため、各コンピューティング環境に関する知識が必要であり、このデータ管理や統合がスムーズでない場合、運用における業務のムダが発生してしまいます。
そのため、各環境に詳しいIT人材の採用・教育と、さまざまなデータ環境に散在するデータを、一元管理できる「データファブリック」の考えがハイブリットクラウドの構築・運用において重要となります。

自社に適したクラウド環境の構築はSproutlyにご相談ください

本記事では、クラウドの運用モデルである、マルチクラウドとハイブリッドクラウドについてご紹介しました。
先述した通り、企業によって導入すべきモデルが異なり、また適切なモデルを導入するには、問題や目的の明確化が必要なため、自社のみでは難しいケースが多いでしょう。

 

そこで、Sproutlyでは、お客様に合わせたクラウド環境の構築の支援を行っています。今回ご紹介した、2つのクラウドに関してもお客さまに合った最適な運用方法を提案し、その構築・以降の支援を行えます。

 

以下資料では、クラウド移行の概要を解説しています。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

この記事を読んだ方におすすめの
お役立ち資料はこちら
お役立ち資料
DXに向けたクラウド移行を検討の方必見 クラウド移行入門ガイド
DXに向けたクラウド移行を検討の方必見
クラウド移行入門ガイド
近年、DXの推進や、リモートワーク推進といった働き方改革のために自社のシステムをオンプレミス環境からクラウド環境への移行する企業が多くなっています。一方で、企業によってはクラウド移行を検討しているが、知見がなくどのように行えばいいのかわからない、不安があるという方も多いのではないでしょうか。本書では、クラウドとオンプレミスの違いやクラウド移行を失敗しないための事前準備、ポイントをご紹介します。
資料ダウンロード

このコラムを書いたライター

SREベース運営局
SREベース運営局
SREベースは、Sproutlyが提供するSREサービス、SIサービスに関するトレンド・業界動向からノウハウまでアプリケーションの構築・運用に役立つ様々な情報をお届けします。